獣になれない私たち

もう終わってしまいましたが、「獣になれない私たち」というドラマでダブル主演のうちの1人、松田龍平さんの職業が公認会計士という設定でした。


公認会計士が主役級というドラマや映画はかなり珍しいです。


ぱっと思い浮かぶのは映画「ニック・オブ・タイム」(1996年)で主役のジョニー・デップ、「ザ・コンサルタント」(2017年)で主役のベン・アフレックが会計士でした。


「ザ・コンサルタント」のベン・アフレックは表向きは会計士、裏では殺し屋というトンデモ設定。


ドラマ「監査法人」(2008年)でがっつり取り上げられたこともありますが、ここまで取り上げられるのは今後ないように思います。


理由は簡単で、ドラマティックな職業ではないからでしょう。


職業をからめてストーリーを展開しても、面白くなる気がしません。


このため、ドラマや映画にでてくる会計士は、会計士でなくてもストーリーに影響しないことが多いです。


そもそも、公認会計士がどんな仕事をしているのか自体、あまり知られていません。


この理由も簡単で、知らなくても日常生活において一切困らないからでしょう。


医師や弁護士が日常に近いのに対して、公認会計士の仕事は日常から遠いところにあります。


公認会計士でないとできない仕事は「監査」です。


「監査」とは、「決算書が正しいかチェックすること」です。

チェックして、正しいか正しくないかについて意見します。


今回の「獣になれない私たち」での松田龍平さんのセリフに「無限定適正意見」「限定付き適正意見」「不適正意見」という用語がでていました。


専門用語なので小難しく聞こえますが、要するに「無限定適正意見」は ○ 、「限定付き適正意見」は △ 、「不適正意見」は × ぐらいの意味です。


この場合の○△×は財政状態、経営成績についてではなく、あくまで正しいか正しくないか。


決算書に対して公認会計士が「無限定適正意見」を出しているのであれば、その決算書は財政状態、経営成績が良いなら良いなりに、悪いなら悪いなりに正しいということになります。


上場企業の株式は、市場で売買されていますが、売買するにあたってなんの情報もないのであれば、宝くじのようなものになってしまいます。


そこで上場企業は情報として決算書を開示(公開)しないといけないことになっています。


しかし、開示される決算書がそもそもガセ情報なら、市場は騙しあいの無法地帯となり、なんの情報もない状況よりもかえって悪くなってしまいます。


そうならないために開示する前に監査を受けるのです。


この結果、開示される決算書は、ほぼ100%「無限定適正意見」がついたものとなります。


ただ、当たり前にそうなるのではなく決算書が開示されるまでに、企業と公認会計士との間でけっこうなすったもんだがあったりします。


公認会計士から、会計処理をかえないと「無限定適正意見」を出せないと言われたからといって、そのとおりにすると、赤字決算になってしまうなど重大な影響があることもあります。


場合によっては、会社が営業停止になったり倒産することもありえます。


このような場合に、会計処理を変えないと「無限定適正意見」を出せないと企業に向かって言うことは、死亡宣告に近く、公認会計士にとっても非常に神経が磨り減るものとなります。


実際に自殺者がでたケースもあります。(書籍「りそなの会計士はなぜ死んだのか」)


企業と公認会計士のギリギリのやりとり、このあたりはドラマにならなくもないですが、やっぱり面白くなりそうにないですね。


加藤竜公認会計士事務所

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